高齢者の多剤使用に関する指針~ ポリファーマシーの解消
当サイトの「最新福祉トピックス」でもピックアップした 「『高齢者の医薬品適正使用の指針(各論編(療養環境別))について』の通知発出について」 は、ご覧いただいたでしょうか。
ただ、全59ページとボリュームがある文書なので、目を通すだけでも時間がかかります。
以下は、私個人が理解するために要点をかいつまんだメモですが、シェアしますので、お役立ていただければ幸いです。
このページの目次
文書の目的
「高齢者の医薬品適正使用の指針」は、ポリファーマシー※1における診療や処方の際の参考情報を医療現場等へ提供することを意図して作成された。
高齢者の医薬品適正使用の指針(各論編(療養環境別))について
つまり、単なる減薬ではなく、高齢者の薬物療法の適正化(薬物有害事象の回避、服薬アドヒアランスの改善、過少医療の回避)を目指すためのものである。
https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/000517943.pdf
ポリファーマシーとは
※1: 多剤服用の中でも害をなすものを特にポリファーマシーと呼ぶ。ポリファーマシーは、単に服用する薬剤数が多いことではなく、それに関連した薬物有害事象のリスク増加、服薬過誤、服薬アドヒアランス低下等の問題につながる状態である。
高齢者の医薬品適正使用の指針(各論編(療養環境別))について
https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/000517943.pdf
(強調引用者)
アドヒアランスとは
近年, 内服遵守に対する用語はcompliance(コンプライアンス)からadherence(アドヒアランス)に変わりつつある. コンプライアンスは医師の指示による服薬管理の意味合いで用いられるが, アドヒアランスは患者の理解, 意志決定, 治療協力に基づく内服遵守である.
服薬アドヒアランスとは―コンプライアンスからアドヒアランスへ
https://med.m-review.co.jp/article_detail?article_id=J0028_0703_0007-0011
(強調引用者)
高齢者の多剤使用の問題点
- アドヒアランスの低下や薬物間相互作用の問題等につながるリスク因子のひとつであり、処方の確認・見直しの際の目安となる。
- 薬剤種類数が多いことと「特に慎重な投与を要する薬物」(PIMs)の処方の間には関連がある。
つまり
多剤服用になると、
- 本人の服薬管理が難しい。
- 有害事象の原因になりうる。
- 薬剤間の相互作用にも問題が生じる可能性が増える。
多剤服用の現状
外来・在宅医療・特別養護老人ホーム等の常勤の医師が配置されていない施設の場合
5種類以上の薬剤が処方されているのは、 65~74歳の3割・75歳以上の4割 。近年、同じ傾向が続いている。
→75歳以上の4割以上が、5種類以上を使用している。
→5種類より多く処方しないようにという方針。
薬剤師が訪問している在宅療養患者において、内服薬剤種類数は中央値で7種類であったという報告がある。
→中央値が7種類!?
- PIMs( 特に慎重な投与を要する薬物)の処方は高齢者の約1/4でみられる。
- ベンゾジアゼピン系催眠鎮静薬/抗不安薬や非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が多く使われている。
薬剤師が薬物有害事象を見つけたケース
薬剤師が訪問時に薬物有害事象を見つけるケースでは、催眠鎮静薬・抗不安薬、精神神経用剤、その他の中枢神経系用薬のいずれかが被疑薬に含まれることが多く3、薬物有害事象と関連する因子の一つとして、内服薬剤種類数が多いことが示唆されている。
高齢者の医薬品適正使用の指針(各論編(療養環境別))について
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75歳以上の在宅・特養の調査結果
首都圏の一市町村において、75歳以上の在宅療養患者及び特別養護老人ホーム入所者を対象に1ヵ月間の処方調査(頓服の内服薬を含む)を行ったところ、それぞれ約6割及び約4割で6種類以上の処方がみられた4。よく使われているPIMsは両者で共通しており、催眠鎮静薬、利尿薬及びH2受容体拮抗薬が多かった。
高齢者の医薬品適正使用の指針(各論編(療養環境別))について
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- 催眠鎮静薬
- 利尿薬
- H2受容体拮抗薬
が処方されていることが多い。
非薬物対応
ポリファーマシー対策として、現在服用している処方の確認・見直しを検討する過程において、アドバンス・ケア・プランニング(Advance Care Planning;ACP)(以下「ACP」という。)や非薬物的対応の視点、患者を共に支える多職種の連携は重要である。
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非薬物的対応の重要性
〇生活習慣の改善、環境調整、ケアの工夫
高齢者の種々の療養環境において、薬物療法以外の手段による疾病
の予防と治療、健康増進を実行することなどは、薬物療法と同様に重要である。
それらは自助・互助としての生活習慣の改善、環境調整、ケアの工夫や、専門職が実施する運動療法、食事療法、心理療法、リハビリテーションなど多岐にわたる。高齢者は、薬物有害事象によって、ふらつき、転倒、食欲低下、便秘、抑うつ、認知機能低下といった老年症候群が生じることがあり、そのリスク回避のためにも、薬物療法に先んじて患者の状態に応じた実施可能な手段を講じることが推奨される。
認知症の高齢者に対する非薬物的対応としては、認知症ケア、認知機能訓練、認知刺激、認知リハビリテーション、運動療法、芸術療法、回想法などが一般的に行われ、環境調整、介護者に対するサポート、介護保険サービスの導入なども効果的である。
高齢者の医薬品適正使用の指針(各論編(療養環境別))について
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特に認知症の行動・心理症状(BPSD)の治療にあたっては、薬剤の使用により錐体外路症状や過鎮静など日常生活動作(ADL)に影響を与える薬物有害事象が生じやすいため、緊急対応が求められる場合を除き、まずは非薬物的対応を行うことが望ましい。
○薬物療法からの切り替えの検討
高齢者の医薬品適正使用の指針(各論編(療養環境別))について
認知症治療薬、催眠鎮静薬・抗不安薬、消炎鎮痛薬等を長期間服用しても状態の改善が認められない場合は、非薬物的対応への切り替えを検討するとともに、減薬又は薬物療法の中止を考慮する。
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→ 長期的な安全性とリスク・ベネフィットバランス
処方の優先順位と減量・中止
モニタリングが必要と考えられる状況の例
- NSAIDsを長期服用している場合
- 抗コリン作用を有する薬剤(胃腸薬等)等を長期服用している場合
- 便秘を患っており、下剤を服用している場合
- 骨粗鬆症治療薬を服用している場合(顎骨壊死の予防)
- 睡眠鎮静薬・抗不安薬をを長期服用している場合
認知症治療薬を使用している場合、BPSDで抗精神薬等を服用している場合
高用量の利尿剤を服用している場合 - 残薬が多い(服薬アドヒアランスが悪い)場合
- 処方理由の不明な薬剤を服用している場合
- 複数の医療機関からの投与期間が重複している場合
施設で想定される状況とモニタリング
看護・介護職のモニタリング支援が必要になるため、看護・介護職向けの定期的な勉強会や日々の業務において、薬物療法に関する積極的な情報提供を行うとともに、減薬する際は、できる限り減薬のタイミングや減薬後のモニタリングの内容や方法について明確に伝えることが重要である。
また、施設長(経営者)は、施設の運営を統括し、その方針について入居者と家族へ説明し理解を求める立場にある。そのため、施設長にもポリファーマシーの趣旨を理解していただき、ともにポリファーマシーに対する施設の基本方針を策定、共有することが望ましい。
高齢者の医薬品適正使用の指針(各論編(療養環境別))について
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おわりに
薬物療法及びその適正化は患者・家族の意向を尊重して行わなければならないことを強調しておきたい。意向を直接確認することはもとより、CGA等で得られる生活機能や生活状況、日常の訴えや意見などの情報から患者・家族の意向を推測することが求められる。また、患者・家族の意思決定支援のためにもACPの考え方と手法を積極的に取り入れることも推奨される。
高齢者の医薬品適正使用の指針(各論編(療養環境別))について
https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/000517943.pdf
そのためには、平易で丁寧な説明・注意喚起を。
参考リンク
- 高齢者医薬品適正使用検討会|厚生労働省
(W)